理学療法士的考察

もはやメジャー移籍決定?村上宗隆選手が怪我から復帰後にホームランを量産できている要因【動作分析オタク理学療法士的考察】

1. はじめに

理学療法士の尾澤です。
小学生の頃にリトルリーグから野球を始め、硬式野球7年、軟式野球5年、指導歴10年以上と野球歴は長いです。昔から、プロ野球の勝敗やチーム順位には興味がなく、「なぜこの選手は活躍しているのか?」「なぜこんなに良い選手が今調子を崩しているのか?」「なぜ怪我をしてしまうのか?」という視点ばかり追っていた“動作分析オタク”でした。
理学療法士の後輩には「そんなところを見て何が面白いんですか」と呆れられていました。

今や日本を代表するスラッガーの村上宗隆選手については以前からチェックしており、怪我をした際にはショックを受けておりました。
復帰してからの活躍は流石の一言です。
今回は、怪我から回復して絶好調の村上選手について、ネット上で拾える情報と映像をもとに、なぜ怪我から復帰後から脅威的なペースでホームランを量産できたのかを、なぜ一時期調子を崩していたのか、なぜ怪我をしてしまったのかと関連して考察しました。

一個人の考察ということで、暇つぶしのネタにしていただければ幸いです。


2. 2022年:三冠王の裏にあった“完成形フォーム”

2022年の村上選手は、打率 .318、出塁率 .458、長打率 .710、OPS 1.168という圧倒的な数字で三冠王に輝きました。特に印象的だったのは「打球の方向と質」。センターから逆方向を中心にホームランを量産していました。

この圧倒的な成績の裏にあったのが、右足母趾球の使い方でした。

左打者にとって、前足(右足)で「壁」を作るのはスイング動作において重要です。
(私は理学療法士であるため、「壁」という曖昧な表現を使うのは嫌いですが、わかりやすいのであえて使います)
インパクトの瞬間、村上選手は母趾球で地面をしっかり捉えるのが抜群に上手く、壁を作るのが上手いため、力強いスイングができていました。

「母趾球で踏める」ことのメリットは、単に壁をつくることだけではありません。

  • 足の内側に荷重をかけることで下腿内旋 → 大腿内旋 → 股関節内旋が連動して起こる
  • 骨盤が自然に「キュッ」と前に回旋する
  • 腰がスムーズに回転し、上半身は無理なく後からついてくる

つまり、下半身で作ったエネルギーが、無駄なく自然にバットに伝わるのです。

この動きがほぼ完成していたのが2022年シーズン。だからこそ、村上選手は「最年少三冠王」という偉業を達成できたと考えられます。

余談ですが、似たような前足の使い方をするのが近藤健介選手です。プロの中では小柄な体でコンパクトなスイングなのに長打が多いです。


3. なぜ“56本目”の壁に当たったのか?

2022年末に56本目のホームランを迎える場面、フォームを見ると明らかに母趾球が使えていおらず、インパクト時には踵の外側に荷重がかかって母趾球が浮いてきており、フォロースイング時には完全につま先が浮いて、上半身に偏った振りになってしまい、
本来の“全身がきれいに連動したフォーム”ではなく、力任せのスイングになっているように見えます。

2022年10月3日 56号HR(インパクト時)
2022年10月3日 56号HR(フォロースイング時)

本来なら母趾球で地面をとらえて自然に股関節が内旋し、骨盤がキュッと回るはずのところを、上半身で無理やり回す動きになってしまっています。結果的に壁が作れず効率の悪いスイングとなりました。55本目以前の数本と比べると明確に違いが見て取れます。


4. WBC、2023年、2024年の低迷

成績の低下

下の表は村上選手の年度ごとの成績です。

年度試合数打率出塁率長打率OPS本塁打打点
2018年6.083.214.333.54812
2019年143.231.332.481.8143696
2020年120.307.427.5851.0122886
2021年143.278.408.566.97439112
2022年141.318.458.7101.16856134
2023年140.256.375.500.8753184
2024年143.244.379.472.8513386
2025年※ 9/10現在38.293.369.7211.0901835
参照: スポーツナビ 野球 NPB.jp 日本野球機構東京ヤクルトスワローズ
  • 2023年成績:打率 .256、31本塁打、OPS .875、
  • 2024年成績:打率 .244、33本塁打、OPS .851

OPS 1.168を記録した2022年と比べると明らかに成績は下降。(この成績で下降と感じさせてしまう時点で次元が違う選手ですね…)

WBCでの不調がわかる印象的なシーン

興味深いのは、2023年WBC決勝でのUSA戦です。同点ホームランの際はインパクトの際もフォロースイングの際も完璧に母趾球で踏めていて、本来の理想的なフォームに近いホームランでした。
準決勝のメキシコ戦のサヨナラ打では小趾側に流れた後に踵で回ってしまっていましたが、多少崩れていようとも土壇場で結果を残せるのはさすが生粋のスター選手だと感動しました。

ただ、シーズン開始前の時期に誤ったフォームの運動学習を引きずってしまい、十分にフォームの修正ができなかったことで、その後のシーズンの不調につながったように感じます。

飛距離やコンタクトにも変化があった?

下の表は球場別の本塁打数・割合を示したものです。

2025202420232022
本数割合本数割合本数割合本数割合
神宮球場1263%1752%2684%2138%
その他737%1648%516%3563%

基本的にはホーム球場である神宮での本塁打数や割合が多いのは普通ですが、2023年は84%が神宮球場での本塁打となっており、コンタクトの精度が下がっているか、そもそも飛距離が出ていなかったことが伺えます。

打球方向の変化

2025202420232022
本数割合本数割合本数割合本数割合
左方向632%1030%1135%1832%
センター方向737%824%413%1323%
右方向632%1545%1652%2545%

打球方向にも大きな変化が見られました。2022年はセンターから逆方向へも長打を放ち「全方向に強打できる打者」でしたが、2023年はセンター〜左への本塁打が減少。強引に引っ張る傾向が顕著になりました。

これはまさに、2022年シーズン終盤から崩れた母趾球で踏めなくなってしまった結果だと考えています。

2025年シーズンは全方向にバランスよく打ち分けができています。


5. 【PT尾澤的考察】骨折をきっかけとした“誤学習”とフォームの崩れ

母趾末節骨骨折からの影響

2024年シーズン最終戦の自打球で負った右母趾末節骨の骨折。
(母趾末節骨とは親ゆびの先端の骨です。)
骨がずれてしまったりなど、よほどでなければ手術が必要とはなりませんが、一般的に骨折後は骨がくっつくまで3ヶ月程度かかり、その間は「踵や小趾側に体重をかけて生活するように」と指導されます。

オフシーズンの多くを踵・小趾側荷重で過ごした結果、春キャンプまでに「小趾側体重・踵体重」という誤学習が強化されてしまったのだと考えます。

崩れたフォーム①:小趾側荷重の弊害

小趾側に流れることで母趾球で地面を踏めず、体の側面で壁が作れなくなる。すると体が開いたり回りすぎたりして上手く下半身からの力がバットに連動しないため、上半身の力で無理やり振るフォームもしくは上半身が回りすぎて筋肉等が過剰に伸ばされるフォームに陥ります。

▲ 2025/4/14 二軍戦でのライトへのホームラン。右足が小趾側に流れ、体の外側で壁を作れていない典型的な悪い引っ張り。

参考映像:【プロ野球2軍|オイシックス】連勝狙うも完封負け ヤクルト・村上が特大ホームラン【新潟】スーパーJにいがた4月14日OA

崩れたフォーム②:小趾側荷重よりも悪い、踵荷重の弊害

下の画像は2025年4月17日の一軍復帰直後で離脱に繋がった際のスイングです。
踵荷重となってくるんと回ってしまいます。踵でくるんと回ってしまうと、前の足で壁を作ることができず、インパクトでスムーズに体を回すことができない上に、フォロースイングでつま先で体が開くのを抑えることができず、上半身が回りすぎて上半身の筋肉等が過剰に伸ばされて損傷につながります。まだ小趾側に流れた方が体の開きを抑えられるため、幾分かましです。

▲ 2025/4/17 一軍復帰直後、離脱となった際のスイング。つま先が浮いて踵で回り、上半身で強引に振ったフォーム。体幹に無理な負担がかかり離脱へとつながったか。

このスイングの状態で1軍復帰したため、再び「上半身のコンディション不良」という形の怪我に直結したと考えられます。

参考映像:テレ東スポーツ:【ヤクルト】復帰の村上宗隆にアクシデント…ヤクルトは延長で競り負け連敗|プロ野球 ヤクルト 対 阪神|2025年4月17日

そもそもの上半身のコンディション不良の原因

村上選手が2025年開幕に出遅れて、春に発表した「上半身のコンディション不良」。これ自体の正確な診断名等は公表されていませんが、数ヶ月の2軍生活を考えるとかなり重症です。それを引き起こした原因は、単に上半身そのものの問題ではなく、様々な要因が重なって生じた結果と考えられます。

要因①:壁を作れず、上半身を強引に回すフォームによる上半身の筋群の蓄積疲労

2022年シーズン終盤からWBC、2023年、2024年、2025年開始時に見られた、スイングのインパクト〜フォロースイングにおいて右足の小趾側に流れる、もしくは踵でくるんと回ってしまい、かかり続けた上半身の筋群の疲労の蓄積が一つの要因と考えます。

要因②:右母趾末節骨骨折

足を踵や小趾側で支えるクセが定着し、打撃フォームだけでなく、日常生活における歩行や走行などでも正しい母趾球の使い方が失われることや、骨折による痛みや無意識に幹部をかばう影響で、右足で荷重する際に無意識に右肩が下がり、右の体幹が重力に対して潰れるような使い方をしてしまい、体幹の筋出力低下が生じていた可能性もありそうです。

要因③:右肘のクリーニング手術

2024年〜2025年のシーズンオフ中に行った右肘のクリーニング手術により、こちらも無意識に右肘をかばう中で右肩が落ち、右の体幹がつぶれて、体幹筋の筋出力低下が生じてしまったのではと考えます。

結果:壁を作れず、上半身を強引に回すフォームのまま1軍復帰

2025年シーズン始めの2軍戦の動画をいくつか見ましたが、合わせる程度のヒットを打った際は綺麗なフォームで打てていたのですが、フルスイングをした際には上記のように崩れた打撃フォームとなっていました。
もともと村上選手はインコースや高めの速球を打つ際は右足の小趾側に流れたり踵で回ることが多かったため、
下半身からの連動が上半身の筋群に過剰な負担が集中

これらの要因が積み重なり、シーズン序盤に「上半身のコンディション不良」として表面化したと推察される。つまり“足の怪我や右肘の手術が引き金となって上半身の怪我を生んだ”という連鎖が起きていた可能性が高いと考えます。


6. 【PT尾澤的考察】「復帰後即ホームラン」の秘密:理想的な足部機能の再構築

7月29日、一軍復帰直後のホームランは、まさに“理想のフォーム”が戻ってきていました。4月17日の時点とは違い、完璧な復帰でした。

▲ 2025/7/29 復帰直後の一発。右足母趾球でしっかりと地面を踏み、股関節の内旋から骨盤の回旋へとスムーズに連動している。

「母趾球で踏む」意識を徹底。これが結果として即ホームランにつながったのだと思います。その後、記事執筆時の2025年9月10日現在までの19本のほとんどが、かなり右母趾球を意識しているフォームとなっているのが、ホームラン映像を見てもわかります。

特にそれがみて取れるのは2025年9月3日(水) 「巨人×ヤクルト」京セラD大阪での第15号HRです。大勢投手の外角高めの150km/hの直球をバックスクリーンに放り込んだ際の1発ですが、母趾球が浮きそうになるのをこらえてこらえて体の開きを抑えているのが見て取れます。
参考映像:DRAMATIC BASEBALL 2025:【場内どよめく】村上宗隆 第15号ソロ【特大弾】


7. 「良い引っ張り」vs「悪い引っ張り」の対比

村上選手は広角に全方向に大きい打球を飛ばせる選手ですが、真ん中から甘めのアウトコースを右方向に引っ張った際に良し悪しが分かれます。
今回は下に参考画像(特に映像)を添付いたしましたので、0.25倍速にして見比べてみてください。
どちらも対右投手の真ん中付近に投じられたスライダーをひっぱってホームランにした際のものです。

悪い引っ張り

2025年7月31日の第2号ホームランです。小趾側に流れて「体が開いて流れてしまった」少し悪いフォームです。

【参考画像】サンスポ:ヤクルト・村上宗隆が特大2号も大敗で連勝8で止まる 高津監督「しっかり反省して、残り2カ月のゲームを頑張っていきたい」
【参考動画】DAZN japan:怪物すぎる!村上宗隆(ヤクルト)が確信の第2号特大ホームラン|2025年7月31日 プロ野球

良い引っ張り

2025年8月11日の第4号ホームランです。小趾側に流れそうになっているのをこらえて、母趾球で踏みにいっているために、全身の自然な連動が出た「良い引っ張り」です。記事内で「そんなに降らずとも入るんだな」と言っているのが非常にわかりやすいです。
このホームランは振りに行ったのではなく、下半身がきれいに使えて自然と振れたためのものです。

【参考画像】ヤクルト・村上宗隆 7試合ぶり4号ソロに「そんなに振らずとも入るんだな」 ベンチ前で歓喜のスキップ
【参考動画】東京ヤクルトスワローズ公式:【スワローズ活躍シーン】内山壮真選手&村上宗隆選手が2者連続弾&小川泰弘投手、約2ヶ月ぶりの1軍登板で3勝目! 8月11日 東京ヤクルトスワローズvs横浜DeNAベイスターズ(神宮球場

この違いは 「小趾側に流れるか、母趾球で踏めるか」 に尽きます。同じ引っ張りでも、結果や本人の感じ方が大きく異なるのです。


8. 今後の課題とメジャーでの展望

課題は右肘

村上選手の打撃フォームはきれいな骨盤の前傾・腰椎の前弯が出ていて、股関節や体幹の連動がきれいに出やすく、理学療法士としては少年たちにも真似してほしいフォームです。

今後、メジャーの舞台での活躍の鍵は「右肘」にあると考えます。クリーニング手術を受けたということなので、もともと肘に負担がかかりやすい悪いアライメント(関節の位置関係の不良)があって肘を痛めていたか、もしくは肘を痛めたことで悪いアライメントとなっている可能性が高いです。

村上選手はインコースや高めの速球を打つ際に、前述したように踵で回ってしまう癖が出やすいです。クリーニング手術前は、もともとの右肘の痛みがあったことが要因と考えます。
右肘の痛みや悪いアライメントはインコースを打つ際の理想的な肘の使い方と非常に相性が悪く、上手く肘を抜くことが難しくなります。

肘を抜く動作が難しくなると、インコースの速球対応が厳しくなります。ここで上半身で強引に振れば、再び体幹に過剰な負荷がかかり怪我につながるでしょう。

インコースの理想的な肘の抜き方とは?

最近、ちょうど良い画像がネットニュースに上がっていました。大谷翔平選手が2年連続で50号HRを打った際の画像で、インコースに外れた速球をライトスタンドに叩き込んだ際のものです。

ドジャース対フィリーズ 8回裏ドジャース無死、右越えに50号ソロ本塁打を放つ大谷(撮影・菅敏)(Nikkan Sports News.)
【引用元】2025年9月17日 日刊スポーツ:大谷翔平「全然、何も感じてはない」本塁打王争いよりもチームの勝利「状況によってということ」

一般の方からすると、ただのアッパースイングに感じてしまうこの体の使い方ですが、”いかに全身の出力が出る理想的な体の使い方をするか”を常に考える理学療法士の視点では、最も体幹・肩甲骨・上肢(腕)が連動して最大限の出力が出せる理想的な使い方となっています。
大谷選手に限らず、とんでもない打球を飛ばすメジャーの打者はこの引き手の使い方ができています。(ちなみにこの画像のフォームは左肩甲骨〜上肢も理想的)
肘を何度も手術している大谷選手がこの引き手の使い方ができているのは、本当にすごいの一言です。
こんな惚れ惚れするような完璧な瞬間を撮ってくださった菅敏カメラマンさんに感謝です。

メジャーでの攻め方

メジャーではデータ野球が浸透しており、村上選手が真ん中〜アウトコースを得意とするデータは知られており、インコースの速球で攻められる可能性が高いと考えます。

肘のアライメントを整えた上で、自然に肘を抜けるフォームを習得できるかどうかが、メジャーで成功するための最大のポイントではないかと考えています。


9. まとめ

村上選手の成績の波には、

  • 右足母趾球で壁を作る連動フォーム

という“身体の使い方”の影響が色濃く反映されていました。

復帰後の活躍は、誤った癖を修正した結果。そして今後は肘の機能を整えることができれば、メジャーでもさらなる活躍ができるのではと考えています。

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